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物流の「2024年問題」はどうなった? 経営者が知っておくべきポイントを説明! 

ヒロシ

そういえば、ちょっと前に新聞やテレビで「物流の2024年問題」って、よく報道されてましたよね。今は2025年だけど…あまり耳にすることが無くなりましたね。どうなったんでしょう?

ハカセ

おお!それはいいところに気がついたの!そうじゃ、確かに以前と比べると「2024年問題」という言葉を耳にすることは少なくなってきたの。ただ、「もう過ぎ去ったから問題なし」というものではないんじゃ。日本に住む誰もが知っておきたい話ではあるの。

サクラ

私も言葉だけは知ってるけど、具体的な内容はわからないから気になります! 聞かせてください!

私たちの普段の生活には欠かせない「物流」。スーパーマーケットやコンビニに行けば、肉・魚などの食材や、さまざまな調味料が気軽に購入できますし、ECサイトで注文すれば自宅に商品が届くのも当たり前になりました。こうした便利さは、日々物流が円滑に機能しているからこそ成り立っています。

そんな物流の世界において、近年よく耳にするようになったのが「2024年問題」です。物流の仕組みを揺るがしかねないと懸念されていたこの問題は、ニュースや新聞でもよく取り扱われていました。2025年となった今、この問題はどうなったのでしょうか。一緒に見ていきましょう!

目次

物流の「2024年問題」とは?

そもそも、物流の「2024年問題」とはいったい何でしょう? この年にいったい何が起きたのでしょうか? これは、2024年4月1日から、働き方改革関連法改正により、物流業に従事するドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることを指します。


背景には、物流業界特有の課題があります。トラックドライバーは慢性的に長時間労働を強いられており、過労や健康被害が社会問題となっていました。平均年齢は40代後半に達し、若い世代の新規参入も少ない状況でした。さらに、長時間労働の割に賃金水準が低いことから、他業種に人材が流出し、人手不足に拍車がかかっていたのです。

こうした現状を改善するため、ドライバーの労働時間に上限が設けられました。しかし、規制によって稼働時間が減るということは、そのまま輸送能力の低下につながります。これにより次のような懸念が広がりました。

  • 物流事業者の利益減少:稼働時間の制約により、今まで通りの配送量を維持できずに売上が落ち込む可能性。これまでひとりのドライバーが長時間運行して運んでいた荷物が、運べなくなることが懸念されます。
  • ドライバーの収入減少:残業時間の減少は残業手当の減額につながります。離職や転職を招き、結果的には業界全体が人不足に陥るリスク。
  • 運賃の値上げ交渉:物流事業者は荷主に値上げを求めざるを得ない状況となりますが、簡単に受け入れられるとは限りません。
  • 荷主側の利益率低下:物流コストが上昇することは免れませんが、価格転嫁に成功しないと収益性が下がり、経営状態が悪化する恐れがあります。

これらが円滑に進まない場合、物流が停滞し、必要な物資の配送ができなくなるという懸念があり、各メディアでも多く取り上げられていたのです。

現在の状況

それでは、2025年となった今、物流業界はどのような状況になったのでしょうか? 「2024年問題」は乗り切れたのでしょうか? 

国土交通省が2025年に公表した「交通政策白書」によると、当初懸念されていたような全国規模の物流停滞は起きていません。各社が知恵を絞り、生産性向上や効率化に努めた結果だといえます。それでは、どのような対応を取ったのでしょうか?

実際の対応例

  • 運行計画の見直し:効率的な配送ルートに見直し、時間の無駄を削減する。
  • IT・デジタルツールの活用:配車管理システムや勤怠管理の導入により、事務作業を削減。
  • 荷主との交渉:一部では運賃の適正化が進み、従来よりも値上げを実現できた事業者も増えているようです。

業務の効率を上げ、収益性を維持している様子がわかります。 一方、日本トラック協会の調査(2025年3月時点)で、「ドライバー不足」を感じている企業が6割以上いたりと、依然として課題は残っています。

これからの課題

物流の2024年問題は「解決した」というよりも、「新しい課題への入口」といえます。

人材不足の深刻化

今の状況が大きく改善するきっかけがなければ、2030年には輸送能力が約3割不足するという試算もあります。高齢化や若年層の不人気を考えれば、人材確保は引き続き最大のテーマです。
トラック運転者の平均年齢は他職種に比べて高く、直近統計でも大型50.2歳・中小型49歳とされています。若年層の入職が相対的に少ないなか、数年スパンで大量の退職期が重なるリスクを抱えています。

人材不足の解消に向けては、採用だけでなく「辞めさせない仕組みづくり」も重要です。実際、各社では次のような工夫が広がっています。

  • 荷待ち時間の削減:荷主と協力して予約制の荷役を導入したり、パレット・カゴ車を活用して積み下ろしを効率化する事例が増えています。ドライバーの拘束時間が短縮されることで、働きやすさの改善につながっています。
  • 女性・シニア人材の活用:国土交通省が推進する「トラガール促進プロジェクト」では、女性ドライバーの参入を後押ししています。ある運送会社では短時間勤務や固定ルート配送を整備し、子育て世代やシニア層でも安心して働ける仕組みを導入しています。結果的に、採用の裾野を広げることができています。

                https://www.mlit.go.jp/jidosha/tragirl/miryoku/
                出典元:国土交通省サイト

このように、人材不足の解消には「新しい人材を呼び込む工夫」と「既存人材が辞めない環境整備」の両輪が欠かせません。中小企業でも、荷待ち時間の短縮や勤怠のデジタル化といった取り組みなら比較的導入しやすく、効果が見えやすい分野です。

DXと自動化の推進

配車システムや倉庫の自動化、AIを活用した需要予測など、デジタル化に取り組むことは不可避です。すでに大手ではAGV(無人搬送車)や自動倉庫の導入が進んでおり、中小企業でもクラウド型の配車ツールなど、身近なDXから始める動きが広がっています。

また、国土交通省がまとめた「物流革新緊急パッケージ」でも、DXと自動化の活用は最優先事項として位置づけられています。背景には、物流の現場における「属人的な業務」が依然として多いことがあります。配車や積み込み、人員シフトなどは経験豊富な担当者に依存しがちですが、システム化・自動化により業務を標準化すれば、未経験人材でも一定水準の仕事ができるようになり、人材不足の緩和につながるのです。

さらに、物流効率化の流れは倉庫内業務にも及んでいます。近年ではAIによるピッキング支援や、商品を自動で仕分けるロボットの導入が進んでいます。従来は人手で行っていた作業を機械が代替することで、従業員の負担を減らしつつ、精度の高い業務を実現できるようになっています。

中小企業にとっても、いきなり大規模な投資を行う必要はありません。例えば以下のような「小さなDX」から始められます。

こうした取り組みは、単に効率化のためだけではなく、「働きやすい環境を作り、人材を定着させる」ことにも直結します。とりわけ若い世代はデジタルツールに抵抗が少なく、業務環境がデジタル化されていること自体が「働きやすさ」の一要因になります。

つまり、DXと自動化は「コスト削減の道具」ではなく、人材不足を補う手段であり、従業員を惹きつける魅力にもなる投資なのです。

ヒロシ

物流の世界でも、DXが重要なポイントなんですね!

サクラ

大手ECサイトの巨大な無人の倉庫とか、テレビで見たことあるわ!
いろんな業務の効率化にDXを活用している事例がふえてるのね!

すべての経営者が意識しておきたいこと

物流の2024年問題は、単なる業界内だけの話ではなく、多くの業界に影響することが考えられるテーマです。経営者は以下の点を留意しておきましょう。

  1. 取引先、物流業者との対話を強化し関係性を築く
    荷待ちや納期調整など、荷主側の工夫で物流の負担は大きく減らせることができます。物流企業と協力姿勢を示すことが信頼関係強化につながります。
  2. 物流コストを戦略的に捉える
    値上げ交渉は避けられない場面も増えます。その際には、物流を単なるコストではなく「持続可能な供給網への投資」として捉える視点が必要です。また、物流費が上がった際に考えなければいけないのが「価格転嫁」です。商品・サービスなど、どのように価格転嫁して利益を確保するか、戦略を考えましょう。
  3. 小さなDXから始める
    大規模な投資は難しくても、勤怠アプリ導入やデジタルツールの活用など、身近なDXから始めても十分効果は出ます。スマートBIZの他の記事でも、経営者の皆さまがすぐに取り組めるDXのアイデアをいろいろ紹介していますので、是非チェックしてみてください!

おわりに

「物流の2024年問題」は、業界の構造的な課題を表面化させるきっかけとなりました。2025年の今、全国規模の停滞は起きていませんが、人材不足やコスト増といった課題はむしろ鮮明になっています。

中小企業経営者にとって、物流の動向は自社の経営戦略に直結する重要なテーマです。効率化・DX化・取引先との協力を進めることで、単なる「外部要因」ではなく、新しいビジネスチャンスに変えていくことができるはずです。

ヒロシ

なるほど。物流業界だけでなく、我々のビジネスや生活にもかかわってくる問題なんですね。

ハカセ

そうじゃ! 自分たちにも何ができるか、常に意識しておいて損はないじゃろう。便利な生活を維持するためにも、全員で取り組んでいきたいの。

玉川 信のアバター 玉川 信 中小企業診断士

株式会社TUK 代表取締役 / 中小企業診断士
DTP印刷会社、物流系システム会社にて一貫して提案型営業のキャリアを積む。 独立後はコインパーキング運営会社の経営と中小企業支援を両立。中小企業支援では特に「難しいことを言わない、お金をかけない」IT導入による業務効率化に取り組んでいる。自身が中小企業を経営している経験から、経営者の立場に寄り添った支援がモットー。

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