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人手不足の今、良い人材を採用するために必要な視点とは?




サクラ

カチョー、今度新しく新人さんを採用したいって話、どうなりました?

カチョー

うーん、ハローワークに求人は出してるんだけど、なかなか応募がこないんだよ。こんなにいい会社なのに、なんでかな…

ヒロシ

今、ネットでウチの求人票見てますけど…なになに?「作業は単調で、誰にでもできる仕事です」!?

サクラ

そんなに簡単な仕事じゃないわよ!それにこんな書き方をされたら、やりがいを持って働きたいと考えている優秀な求職者には響かないわ。

シャチョー

おやおや、「難しい仕事はしたくない」と思っている人が多いかと思ってそこをアピールしたんだが、若い人には逆効果だったかな。

2025年版中小企業白書でも、「中小企業の人手不足感は依然として深刻」という記載が見られるように、特に規模の小さな企業にとって、いかにして人材を獲得するかは大きな課題となっています。一方、中小企業にとって人材に係るコスト負担は大きなもの。いくら人手不足だからといって「誰でもいいから来て欲しい」というわけではなく、「欲しい人材に来て欲しい」というところが本音でしょう。せっかく採用した人材をうまく活用できず、人件費のみがかさんでしますと、経営全体にも影響が出かねません。

今回は、どうすれば「欲しい人材」を獲得できるのか、採用の観点から見ていきたいと思います。

目次

採用の4Pで自社のウリを定義する

「4P」と聞くと、「マーケティングの4P」を思い浮かべる人もいるかもしれません。有名なProduct(商品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)の視点です。

ただ、ここでは採用に関する「4P」を紹介します。人が組織に魅力を感じ、参加したいと思う理由は4つに大別されると言われています。それが以下の4つです。

採用における4P

  • Philosophy( 理念・目的)
  • Profession(仕事・事業)
  • People(人材・風土)
  • Privilege(特権・待遇)

では、それぞれをもう少し深追いしてみます。例えば、製造業の中小企業であればどのようなアプローチがあるかも併せて考えてみました。ご参考ください。

Philosophy( 理念・目的)

企業の理念やビジョン、社会的意義、何のために存在しているのか。戦略や目標なども含む。

例》「何のために、この製品を作るのか」という社会的意義

  • 「世界で唯一、この部品を作れる技術で日本のインフラを支える」
  • 「下請け脱却。自社ブランドで、使う人の生活を直接豊かにする」
  • 「100年続く伝統技術を、次世代のクリエイティブな形へ昇華させる」

Profession(仕事・事業)

業務内容の面白さ、スキルの向上、裁量の大きさ、得られるキャリア。

例》「ここでしか得られないスキル・手触り感」

  • 「設計から加工、完成まで一人で担当できる『ものづくり』の全行程」
  • 「最先端の加工機を使いこなし、超精密な1ミクロンの世界に挑む」
  • 「多品種少量生産だから、毎日違うものを作る飽きない楽しさ」

People(人材・風土)

どんな人が働いているか、社員の魅力、社内の人間関係、カルチャー。

例》「誰と、どんな環境で技を磨くか」という人間味

  • 「30代の若手リーダーが工場長を務める、風通しの良い現場」
  • 「国家資格を持つベテランが、マンツーマンで技術を伝承する徒弟制度」
  • 「失敗を責めない。新しい加工方法への挑戦を面白がる文化」

Privilege(特権・待遇)

給与、福利厚生、勤務環境、柔軟な働き方。

例》「製造業=きつい」を覆す、独自のメリット

  • 「残業ゼロ。17時のチャイムで即帰宅し、家族との時間を大切にする」
  • 「冷暖房完備のクリーンな工場で、体への負担を最小限に」
  • 「家賃補助や、社食の完備など、地域密着型企業ならではの福利厚生」

一般的に、中小企業は「Privilege(特権・待遇)」の面では大企業に勝てないことが多くあります。ですので、そこで勝負をかけようとするとうまくいかない可能性も。定石としてはそれ以外の「Philosophy( 理念・目的)」「Profession(仕事・事業)」「People(人材・風土)」をうまくアピールすることです。

そのために、採用担当者だけで考えるのではなく、全社員に向けて自社の魅力をアンケートしてみることも一案。多面的に自社の強みを見つけることができます。また、アンケート結果は求職者にアピールするときのエピソードトークとしても利用が可能です。1人の従業員の「生の声」として話ができれば、より求職者の胸に届くでしょう。

「Privilege(特権・待遇)」の切り口でも、近年の求職者が多く希望している「リモート勤務可能」などの条件が許されれば、そこも大きな強みとなります。家庭の事情で自宅での勤務を希望している人や通勤時間を省きたい人、居住地が遠くても働きたい人にもリーチできれば、採用の幅は広がります。

AISASモデルで求職者の行動を「読む」

自社のアピールポイントを整理したら求職者にその情報が届くようにしなければいけません。何故なら、中小企業のウイークポイントの1つが「知名度の低さ」。日常生活で自然と耳にする大企業とは違い、まずは求職者に知ってもらわなければ、土俵にも立てません。その課題を克服するため、AISASモデルというマーケティングの手法を利用するという手があります。

それではAISASモデルとはどのようなものか見ていきましょう。

AISASモデル

  • Attention:認知・注意
  • Interest:興味・関心
  • Search:検索・比較
  • Action:行動
  • Share:共有

これを求職者の行動に当てはめていくと次のようになります。

Attention: 求人票やSNSで会社を知る。

Interest: 「この会社、自分のスキルが活かせそう」と思う。

Search: 会社の評判サイトや代表のSNS、社員のブログを深く読む。

Action: 応募する。

Share: 入社後に「この会社に入って正解だった!」とSNSで発信する。

求職者にこの行動をとってもらうために、事業者側がどのような対応をすればいいかを考えてみましょう。今回も製造業の例をとって具体的に見てみます。

Attention

まずは求職者に自社を知ってもらうための行動です。知ってもらわなければ何も始まりません。

例》

  • SNSでの発信:InstagramやTikTokで、加工中の美しい映像や工場の裏側を発信。
  • 地域へのチラシ配布やポスター:「カッコいい職人」をイメージするような画像で身近な住民に気付いてもらう。

Interest

次に、自社を知ってもらった人に「自分に関係がある」と思わせるための行動です。「単なる作業」ではなく「やりがい」を提示すると効果的です。

例》

  • 求人原稿の工夫:「未経験から3年で職人になれる」など キャリアパスや「17時15分には全員帰宅」など勤務実態もイメージがつきやすいように具体的に記載。
  • 合同セミナーや説明会でのアイキャッチ:目を引くディスプレイや会社説明用動画上映など、一瞬で自社を印象付ける。

Search

興味を持ってくれた求職者は、更に深い情報を検索します。その時に求職者が抱く不安を解消できるよう、詳細な情報を提供できるようにしておきましょう。

例》

  • 自社サイトの整備:特に実際に働く社員インタビューなど求職者にとってリアルな情報を知ることができるコンテンツを重視。
  • 口コミサイトの確認:過去のもので現状に即していない投稿があれば、できる限り情報を更新してもらえるよう工夫を。近年は口コミを重視する傾向もみられるためこまめなチェックが大事。

Action

インターンや面接など実際の応募まで踏み込んでもらえるような工夫です。以前は履歴書送付が一般的でしたが、場合によってはハードルを下げ、気軽に応募できるような仕組みを作っておくことも得策となり得るでしょう。

例》

  • 「カジュアル面談」の設置:「まずは工場見学と社員トークだけでOK」という入り口を作り本格的な応募への導線を確保。
  • LINEなどSNSを通した応募の導入:普段利用しているツールでそのまま応募ができるようにすることで、「興味はあるが応募するかどうか」で迷ったときの壁を低く。

Share

入社した人が「いい会社に入った」と周囲に言いたくなる仕掛けまで作ることができると、次の採用へ良い流れが作れます。

例》

  • 入社ウェルカムキット: オリジナルの作業着や道具をプレゼントし、SNSに投稿したくなる工夫を。
  • 社内イベントの発信:レクリエーションや勉強会などの様子を社員自身が楽しく発信できる雰囲気づくり。

「大企業は『ブランド名』でAttention(認知)を取れますが、中小企業の武器はSearch(検索)での深い共感と、Share(共有)による信頼です。背伸びした広告を出す前に、まずは自社の『中の人』の声を届け、検索された時に『ここで働きたい』と思える情報を整理することから始めてみても良いのではないでしょうか。

ヒロシ

僕に社員インタビューをしてくれたら、すべてを包み隠さず話しますよ。良いところはやっぱり…シャチョーのおおらかな人柄ッスね。

ハカセ

社員の生の声からしかわからない情報というのはとても貴重。求職者にリッチな情報を与えたいものよの。

それでも失敗したくない中小企業者のために

自社の事業を上手にPRするための情報整理と求職者の行動を予測して適切なタイミングでの情報提供のコツを考えてきました。今回は更に自社に合った人材を獲得するための手法を3つ紹介します。

リファラル採用

採用難に伴い注目されているのが「リファラル採用」といい、自社の社員に知人や友人を紹介してもらう採用手法です。中小企業にとって、広告費を抑えつつ「自社にマッチした質の高い人材」を確保するための最強の武器となります。以前から行われていた「縁故採用」と混同されるケースもありますが、その目的や手法が違っていることから、別物として扱われることが一般的です。

メリット:マッチング精度が高い

自社の社風や仕事の厳しさを知っている社員が「この人なら合う」と判断して連れてくるため、価値観のズレが極めて少なくなります。採用後も、社内に「知人」がいる状態でスタートするため入社直後の孤独感がなく、定着率が高まるという期待もできます。

メリット:採用コストを抑えられる

中小企業にとって大きなコストである求人広告費やエージェントへの紹介料などを抑えられるというメリットもあります。一方で、紹介した社員に紹介料として報酬を与えることは、場合によっては違法となる可能性もあるため、注意をしましょう。

注意点:多用しすぎると同質化のリスクも

リファラル採用を重視した結果、似たような性格・背景を持つ人ばかりが集まり、組織の多様性が失われるリスクがも。あまりにも同質化が進むと、企業の成長を阻む場合もあります。自社がどのような状況であるかを冷静に判断する俯瞰的な視点を持つことが必要でしょう。

リファラル採用を推進することで、社員が『自分の大切な友人を誘いたい』と思えるほど、自社を誇りに思っているかどうかを確認できるという副次的なメリットもあります。常日頃から社員が自社をどう思っているかを観察することは大切です。

アルムナイ採用

近年は「アルムナイ採用」といい一度自社を退職した元社員を、再び中途採用する手法も注目されています。

メリット:ミスマッチが少ない

言うまでもなく、採用した人は元社員であるため自社の社風、業務内容、現場の人間関係をすでに熟知しています。企業側もその人の能力や性格を知っているため、「雇ってみたら期待外れだった」「社風に合わなかった」というリスクがありません。

メリット:教育コストと採用コストを抑えられる

基本的な業務フローを教え直す必要がなく、即戦力として立ち上がりが非常に早いです。また、求人広告費や紹介料もかからないため、採用コストも抑えられます

メリット:パワーアップして戻ってきてくれる可能性も

他社で新しいスキルや人脈、異なる視点を身につけて戻ってくるため、「自社の良さを再認識している」かつ「新しい風を吹き込んでくれる」という可能性も秘めています。該当するかはその人次第というところはありますが、そのような視点で採用する人を決めていくのも1つのアイデアでしょう。

この時代、社員の退職時には「もしかしたらまた戻ってきてくれるかもしれない」という可能性も残し、円満退社の仕組みを作っていくことや、退職後も良好な関係を続けていくことを心掛けた方が良さそうです。

パートや業務委託からの「お見合い」採用

いきなり正社員で抱え込むのではなく、まずは「一緒に働いてみる」というプロセスを挟んでみるという手法もあります。

メリット:スキルをきちんと見極められる

履歴書や面接では分からない、実際の仕事の進め方やコミュニケーション能力を現場で確認できることは、大きなメリットです。また、会社側だけでなく、雇用者側も「この職場の雰囲気ならやっていける」と確信してから正社員になれることは双方にとってのメリットといえます。

メリット:優秀な潜在層にアプローチできる可能性も

最初は「週3日の業務委託」や「短時間のパート」としてスタートすることで、副業希望者や子育て中の方などにもアプローチがしやすくなります。少ない時間から始めてみて、双方の合意が得られれば時間をより増やすこともできるでしょう。雇用者側の方も長時間勤務のイメージがつきやすくなり、最初から長時間勤務を依頼されるよりもスムーズに対応ができそうです。

試用期間の解雇は「14日」

最後は注意点です。労働基準法第21条により、試用期間中の者でも14日を超えて雇用した場合、解雇には「30日前までの予告」または「解雇予告手当の支払い」が必要になります。お気を付けください。

労働基準法
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者

人件費が資産になるように

それでは、今回の内容をまとめてみましょう。

  • 採用を始める前にまずは自社のアピールポイントを整理。「採用における4P」などのフレームワークもオススメ。
  • どんなに強いアピールポイントを打ち出せても、求職者の元に届かなければ意味がない。どうすればリーチするかの検証を。
  • 中小企業にとって人件費負担は大きなもの。お互いに失敗しないように、近年注目されている手法を使うのも一案。

従業員に支払う給与は「人件費」という費用ではありますが、会社の貴重な「資産」への投資とも考えられます。ただその資産が活きてくるかは、双方の相性によるところも大きいでしょう。自社に合わない人材であっても、他社では大活躍ということもあり得ます。自社に合う人材を徹底的に求めていくことは、選ばれなかった求職者にとっても幸せなことかもしれません。お互いが会社という組織の中で輝けるよう、最初から全力で挑みましょう。

シャチョー

そうか、まずは我が社の良いところを挙げていってみるのも良さそうだな!カチョー、どんなところがあるかい?

カチョー

ええっと、まずはそれほどITに詳しくなくても仕事についていけるところと、パソコン頼みでないのでサイバー攻撃には強いところと…

サクラ

カチョー、それはまったく強みではないですよ。でも「これからあなたの力でこの会社をバリバリのデジタル企業に変えられます!」というのは良いかも…

ヒロシ

モノは言いようッスね!

大森良夫のアバター 大森良夫 中小企業診断士

ネットビジネス・テクノロジー(株)代表取締役 / 中小企業診断士
ヤフー株式会社に13年勤務し、システム開発・サービス企画・広告営業・事業戦略などネットビジネスの大半の職種を経験。2016 年に独立後は、ECを中心に多業種のWEB システム開発・マーケティング支援に携わり、近年は越境ECに注力している。中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー。

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